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気のむくままに、更新中… いわゆるネタ。 本館は更新が止まっていますが、日記は儚く動いてます(^_^;) PCからでも携帯からでも見れますが、PCからの方が見やすいかと…。 *関連会社様とは一切関係がございません。個人の趣味の範囲内・常識の範囲内でお楽しみください。
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元を辿れば、伝説に近い話だ。



まだ世界が一つだった頃の話である。

ダウたちの種族と共存共栄していた時代。

“彼ら”には死を悟ると、己の魔力の塊である瞳を、親しい者たちに形見や魔除けとして渡す風習があった。



それが『天使の瞳』と呼ばれるもの。



『天使の瞳』が同種族に渡るなら問題は無いのだが、それが他種族の物となると、巨大な魔力によって富を得られると言う。

また、元々虹色に光る瞳である。その美しさからも『天使の瞳』は狙われ、争いが起きた。

彼らの種族は激減し、ついに世界を二つに分けることにした。





その一つが、この屋敷にあるのだ。





あの視線は、同胞の一部を見つけた動揺だった。あの時の衝撃が再び、ダウを駆り立てる。

だが。



「それで、お前はどうしたいんだ?」

「あ~、そうだなぁ」



彼女の優しい熱が、冷えた芯を溶かしていく。

じっと見つめられるだけで、ふつふつと沸き出していた怒りが、撫でられていく。



「う~ん…。実は、取り返すことも考えたけどさ。

さっきも言ったけど、誰も正体を知らないだろうし。本当に形見として渡したものかもしれないからな」



彼女の鳶色がじっと見上げてくる。



『天使の瞳』は美しく力もある。しかし、ダウにはその何倍も、こちらの鳶色の方が価値があるのだ。

元の世界でもこの風習はすでに無く、幼い頃に一度父親から実物を見せられた事があるだけだ。

その時はただ不気味なものにしか思えなかったが、死しても共に居たいとの想いは、理解できる。



「だから、いいや。

大切にしてもらってるみたいだしな」

「そうか」



ダウは目蓋を閉じ、あの『天使の瞳』を思い浮かべた。

金の縁はまだ新しく、『天使の瞳』とは年代が一致しない。

そしてあのペンダントに残る波動は穏やかだった。

つまり、本来の瞳の持ち主が全てを受け入れ、瞳を取り出したのだろう。

それは絆があった証に他ならない。



ダウは、愛しい鳶色に軽く口付けた。



「いつかお前に俺のを一対やるよ」

「…いらん。バカ者」

「残念」



思いっきり眉を寄せた相手を、小さく笑いながら強く抱き締める。



「さっさと寝ろ。明日は叩き起こすぞ」

「へーい」



体温を感じながら目を閉じる。直ぐに心地好い闇に身を委ねた。





◇◆◇



うっかり暗い話になりかけたので、路線変更したら、別の意味でうっかりしてしまいました。

ヤツラは一戦終了後で(爆)

どーでもいい設定はあるんです。

でも、アクセルを酒好きにしたのは予☆想☆外☆

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彼の様子に小さな違和感を覚えたのは、会談…と言う名の雑談の最中だった。





相手は世界でも指折りの商人で、その誕生日祝賀会とやらに兄の代わりとして出向いていた。

ダウは何時ものようにアクセルのやや後ろに影のように佇んでいる。

その、彼の雰囲気が、一瞬だけ膚に突き刺さるものに変化したのだ。

念のため、アクセルは注意深くその商人を観察したが、特に怪しむものは無かった。しいてあげるならば、彼が身に付けていたペンダントヘッドが、嫌に目についた事くらいである。







「酒とお茶、どっちだ?」

「…いや、お前飲ます気満々だろーが。つか、俺、一応仕事中なんだけど?」



与えられた一室のドアを開け、アクセルは廊下で警護にあたるダウに声をかけた。

ちなみに酒瓶を持ったままである。



「さっきのパーティーで結構飲んで無かったか?」

「あんなバカ騒ぎの中で味わって飲めると思うか?

これはここの名産らしい。話のネタに飲まないとな」



返事など最初から聞くつもりなどないアクセルは、ダウの腕を掴み、そのままソファへと座らせた。



「…一杯だけだからな」

「善処する」



半ば引き摺られる形で部屋に入れられた彼は、やけくそ気味に上衣を脱ぐ。

目の前の相手が、一杯で済む筈がないのだ。

とっさにこのソファとベッド、出入口までの距離を計算し、気付かれない様に小さく息を吐いた。







カチカチカチと時を刻む音が、昔は恐ろしかった様に思う。

深夜の闇に覆われて、独りである事が恐ろしくて。



寒かった。



その寒さから逃れる為に、よく体を丸めた。

今は隣に体温を感じるのに、頭の芯までは温めてくれない。



目蓋を閉じれば浮かび上がり、目を開ければあの輝きの残像が残っていた。



「酒の力で眠れないか?」

「悪い、煩かったか」

「隣でごそごそされたら醒める」



言葉とは裏腹に、彼女の口調は優しい。

アクセルは背を向けるダウにそっと両手を這わせた。



「昼には帰るぞ。気になる仕事がある。準備をしておけ」

「いいのか?スケジュールが詰まっていただろう?」

確か、自慢の湖の畔でなにやらイベントがあった筈だ。珍しい渡り鳥が来ているとか。



「義理は果たしたし、顔は十分売った。

それに“私も”あまり彼が得意では無いしな」

「…バレてたか」

「あんな視線で隠していたつもりか?首の皮がひきつったぞ」

「あ~、ごめん…。直ぐに引っ込めたんだけどなぁ~」



あの商人を見た時、否、あの商人が身に付けていたものが何であるが気付いた時、体の中から凍りついたのだ。



ダウは体を彼女の方へ向けると、そのまま抱き締める。



寒いのだ。

あの時の寒さが消えない。



彼女は何も言わずに抱き返してくる。

じわりと触れ合った所から、漸く熱が入って来た。



「…アイツの着けていたペンダントを覚えてるか?」



「ダイヤ形のペンダントヘッドだったな」



直径は1センチにも満たない、金で縁取られたものだ。だが、それ自体から不思議な鈍い輝きを放っていた。

赤・蒼・碧・黄・紫。

それらが混じり合った色。

そして、そのダイヤから放たれていた微弱な気配。



「なんだと思う?」

「…そうだな。螺鈿か何かかと思うが、いや、それにしては少し、魔導に近い波動を感じた。

てっきり古いマジックアイテムだと思っていたが」

「あれは『天使の瞳』だ」

「!」

「かなり加工してあるし、結構な年代物だから、俺も最初は分からなかったんだ」

「間違い、無いのか?」

「あぁ」

「…まさか、現存しているとは」

「…あぁ。多分、誰も知らないんじゃないかな」



アクセルを抱く腕に力がこもる。彼女は静かにその腕に掌をのせた。





◇◆◇



予想外に長くなった!

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去年の震災で、ものの見事に液状化した我が家及び地域ですが、どーにか水平に戻りました(笑)





只今、門扉及び駐車場を整備中です。



建て直しに踏みきったご近所さんも、ぼちぼち完成ってとこでしょうか。

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「待ってろよ…もうすぐだからな」

ラグナは背負った人物に声をかけた。当然、返事はない。その代わりに、浅い呼吸が一刻も早く仲間の元に帰るように告げていた。
ポーションはない。傭兵の知識を動員して、なんとか応急措置はしたものの、背負われた彼の指先からは、ぽたりぽたりと雫が垂れていく。

「もうちょいで、ホームだからな」

意識が無い彼は、目覚めた後その眉間に深く皺を寄せるだろう。
交戦状態の時、動けぬメンバーは置いていく。それは傭兵の常識だった。
彼も又、元居た世界では傭兵だったと聞いていた。

だが。

ラグナの選択は、無理にでも連れていくことだった。迷わずそれを選んだので、元々の世界でも、置き去りにするのは苦手だったのだろう。

背中の彼は生きている。心音と呼吸音が聴こえ、まだ温かい。

なりよりその温もりを手放すなと、心が告げていた。



僅かに上下する振動に、微睡んでいたスコールの意識が浮上した。視界がぼやけているのは、血が足りないからだろう。痛みを感じないのは、マヒしているから。

「…………」

そこで漸く、己が戦闘で吹き飛ばされたことを思い出した。そして、かなりの重症であると。
甘いやつだと、スコールは思った。
本来なら見捨てるべきなのだ。足手まといはいらない。たった一人のせいで、部隊が全滅することだってあるのだから。
傭兵である相手がそれを知らない訳がなかった。

けれど。

何故だかとても、嬉しいのだ。
生きられることが嬉しいのではなく、こうして、彼に背負われていることが。

彼の呼吸音を。
彼の温もりを。

こんなにも身近に感じられることが。


「もうすぐだから。な、スコール」


この温もりを、ずっと探していたのかもしれない。


◇◆◇
カプじゃないです(笑)親子です。

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彼女はよく空を見上げていたはずだ。
それは昔の、まだ子どもだった時の記憶だった。


少しばかり時期外れの休暇をもぎ取り、アクセルたちはある山へと来ていた。
ここは、かつて彼女の一族が治めていた土地であったらしく、手が離れても往き来はそれなりにあるようだ。
その山荘のテラスで、読んでいた本を閉じたまま、彼女は空を見ていた。
今は夜。
ダウもつられて見上げれば、白く輝く星が降り注いできそうだ。

「翔んでみるか?」

そんな言葉が出たのは別れる間際の事を思い出したから。
まだ何も知らないでいられた、昔を。

「何?」
「空、翔んでみるか?」


――もし、また会えたらさ、空を一緒に翔ぼうよっ


あの時の少女は何も言わずに瞳を大きく見開いていた。今のように。

「出来るのか?」
「じゃなきゃ誘わないって。ちょっと準備に時間かかるけど
ここなら山奥だし、一回周回するぐらいなら見つかんないだろ」
「そうか。なら構わない」
彼女が立ち上がると、ダウは魔力を高め始めた。
本来なら彼の瞳は虹色に光っているのだろう。流石にここでも彼はアイレンズを外そうとはしなかった。

ダウは魔力を額へと集中させる。

「?」

すると、短い彼の銀髪が下へ下へと、落ちていく。
髪が延びているのだ。
やがて地面に付き、くるりんっと跳ねた。

「うしっ!さっアクセル、此方へ来てくれ」
「あ、あぁ」

前髪さえも長く、なんだか雰囲気が違う。
戸惑いながら、差し出された手を握ると。

銀髪が一斉に宙を舞った。
「翼…?」
「俺がやるとあんまり綺麗じゃないんだけどさぁ…」


目の前にあるのは銀の翼。


◇◆◇
イメージはヤダモンではなく、ゼノギアスの方です。
どっちかっつーと。

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怖い恐いこわいコワイ怖い恐いこわいコワイ怖い恐いこわいコワイ怖い恐いこわいコワイ怖い恐いこわいコワイ怖い恐いこわいコワイ

巨大なロボットに放り込まれた少年はただ、恐怖に染まっていた。
見知らぬ組織、冷たく見る父、そして向かってくる化け物。

その化け物は使徒だと言った。そして、自分が倒すのだと。

攻撃された箇所は激痛となって体を駆け巡る。

助けてと叫んでも、それは声にならない。


地響きが近づく。それは化け物の足音。

「!!」

少年は完全に混乱していた。回線の声も分からない。
あるのは、殺される、死ぬ、と言う恐怖。

「あっ、う…」


――大丈夫。

少年が我を失う直前、頭の中を優しい声が響いた。

――大丈夫。落ち着いて。

「ひっ」

――目を閉じて。
君は死なないから。
僕がついてるから。

少年の意識はそこで途絶えた。


待っていた。
この時を。
始まる。


一瞬仰け反った体か勢い良く戻り、目の前の第三の使徒を見る。
そして、護るべき人々を。

その瞳には、先ほどの怯えはなく、確固たる意志が宿っていた。

「行こう。今度こそ」


ヒトが造ったヒトならざるモノは、咆哮をあげる。


◇◆◇
今さら感満載なエヴァンゲリオン(苦笑)
逆行?ループネタになります。
えと、シンジくんの中に前のシンジくんが居ます。
しかし、この場合、アスカはどうなるんだろう…?

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墜ちた天使は、体を引き摺りながら夜道へと足を踏み出した。

一歩進む度に、背骨が、脚が、内臓が悲鳴をあげる。ふらつき、目眩がする。

目指すのは朽ち果てた天使の像。薄汚れ、苔がむし、羽根は付け根からもげ、既にそれが何であるか知らぬ人々も多いと聞いた。

けれど、微動な天使の波動を感じる。
呼ばれているのだ。
己は。

負に覆われた守護天使の像の足元に倒れ込むように跪く。

ここは、怒りと哀しみが渦巻いていた。

「何を、そんなに、嘆、いて、お、られる、のです、か?」

その渦は何も答えず、ただ激しく己の体を突き抜けていく。
心を強く持たねば流されてしまう。

ウラギラレタ。
シンジテイタ。
クヤシイ。
クルシイ。

朽ちた天使はそう叫ぶ。


「裏切られた、」
誰に?
「信じていた、のに」
いざやーる、さま。
「悔しい」
あの、冷たい目。
「苦しい」
心が。


ニクイ!ニクイ!


「止めてくださいっ」

髪を振り乱し、脂汗をかき、耳をふさぎ、目を閉じても。

ニクイ、憎い。
「憎い、ニクイ」

像から流れ込む重い声から逃れられない。

「お願い、し、ます。声、を、止め、て。来な……い、で」

信頼し敬愛するあの人を。

憎ませないで。


◇◆◇
暗っ!
なんつーかイザ主っぽい…。
女神の果実を奪われて落とされた直後。

マジで師匠が嫌いになりかけました(笑)

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救いたいのに!


希望を喪わぬ少女を。
絶望に魅入られた青年を。
絶望になったかつての英雄を。


救いたい。


けれど此処では唯の駒。
神々の、駒。
記憶も意思もあるのに伝えることが出来ず。
ただ輪廻の闘いを助けるだけ。


◇◆◇
アシストのキャラって何を思ってるんでしょうね。

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その日、若きグランパニアの王は突如退位を表明した。当初、国内は混乱すると思われていたが、あっさりと次期王は決まり目立ったことはなかった。

「前々から決めていたんだな」
「父さん…ごめんなさい」

中庭に佇むその影に、白髪が混じりかけた男が、声をかけた。
咎めている訳ではない。それは苦笑に近かった。

「ドリスなら任せられると思ったんです。僕は、いつ戻るか分からないから」
「よく彼女が受けたね」
「…メチャクチャ怒られました。でも、最後は、納得してくれました」


――バカね!アンタは本当にバカ!世界の果てでのたれ死ねばいいんだわ!
私だって王家の人間よ。アンタ以上の王になってやるんだから!


男は、愛して止まない息子の顔を見つめる。髪色と口元は妻に似ているが、目元は自分譲りだと、かつて言われたことがある。

「これが、最良の選択なんです。
…僕が居なくなれば、全て丸く収まる」
「すまなかったね。お前を追い詰めてしまった」
「そんなこと無いです!」
最愛の息子は、父が、自分が、そして世界が求めていた勇者だった。
遥か昔、魔王を滅ぼした天空の勇者の再来。そして、運命に導かれ、自分たちもまた、魔界に降り立ったのだ。
やがて幾年月が過ぎ、己は彼に王位を譲った。
だが、それから少しずつ歯車は狂い初めてしまった。
“世界を救った勇者が治める国”

その存在は父王の時より強く世界に衝撃を与え。
結果、内外に要らぬ事態を招いてしまった。
善くも悪くも強き者は人を呼ぶ。そして人は秩序と破壊をもたらす。

しかし。
最大の原因はそれでは無い。彼を追い詰めたのは、彼自身だった。

「鎧と兜は置いていくんだね」

その言葉に、目線をそらし小さく頷き、それから呟いた。

「抑制できなくなりそうで」

以前、一度だけその言葉を耳にしたことがあった。恐怖に顔をひきつらせ、幼子のように父の元へ飛び込んできたのだ。

――自分が怖いんです。力を解放させてしまいたいと願う自分が。もっと強くなりたいと思う己が。

すがる息子を、父は抱き締めることしか出来なかった。


「だから父さん、僕が自分を律する時がくるまで、それを預かっていていただけませんか?」
「構わないよ。
それに、お父さんとお母さんはお前が残り香が無いと寂しいからねぇ…」

しみじみとそう答えると、漸く彼は微笑みを浮かべた。それはまだ弱々しいものではあったが。

「放浪癖はお祖父さんからの遺伝だ。気にするな。
そして、ケリが着いたら戻って来なさい。
ここはお前の家なんだから」
「はい」

彼は目を瞑ると、大きく息を吐いた。次ここを訪れるのは、国民に祖母に祖父に母に、そして父に恥じぬ勇者になった時。

「それでは行って参ります」
「あぁ」


そして勇者は伝説となる。

◆◇◆
若くして力を手に入れたらどうなっちゃうんでしょう?

基本どの色の息子でも良いように、あえて髪色を書きませんでした。

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主人公がちょっとスレています(苦笑)

ご注意を。







「それで、そろそろ腹を割って話さない?」



月すら無い夜。海に浮かぶ船の一室で、黒髪の女性は椅子に座ったまま、じっと青年を見つめた。

口にうっすら笑いを浮かべて。



「何をだい?」



だが、問われた青年は背を向けたまま。

手元の武器の点検を続ける。



「私を選んだ訳よ」

「それは勿論…」

「『愛してる』なんて言わないでよ。気持ちが悪い」

「気持ちが悪い、ね」



くすり、と彼が笑った気配がする。



「えぇ。嘘ぐらい見抜けるわ」

「それじゃあ、デボラ、君はどうなんだい?」



名目上は夫である青年は、漸く動きを止めて、ゆっくりと振り向いた。

食えない微笑みを張り付けて。



「前も話したじゃない。忘れたの?呆けるには早いわよ。

あの街を出たかったのよ。世界を巡るって言うのも、中々刺激的だわ。

この空と海の果てと大地の底を見るのも悪くない」

「本当に?」

「えぇ」



他に何があるの?と、カリソメの妻は髪先を弄りながら答えた。



「へぇ」

「あんたは?私の睨みでは、あのビアンカって娘が本命。フローラのことも満更じゃないみたいだったけど?」

「俺はビアンカが好きだよ。そして、彼女たちを失いたくない」



向かい合う二人の笑みが深くなった。

デボラ、と呼ばれた女性は立ち上がり、夫の顔を下から覗き込む。

夫は、彼女の腰に手を回し、妻はその胸元に顔を寄せた。



「俺には、託された夢がある。その夢を叶える為なら何だってするさ。

…何だってね。

手段は問わない」



暗い暗い瞳。感情を消した目。

その目にデボラの背中はゾクリ、と震えた。

だが、決して嫌な震えでは無い。



「二人を巻き込みたくないし、そんな俺を見せたくない」

「私はいいのね?」

「そう。君はスリルが好きだろう?

一緒に堕ちてくれるだろうと思ってね。

それこそ、大地の底まで」



あっけらかんと言い放つ伴侶に、体を振るわせて笑った。



「いいわ。乗ってあげる。私たち、いい共犯者になるわね」

「それだけじゃないんだけどね」

「あら、まだあるの?」



クスクスと、先ほどの蠱惑的な笑みをから、少女の様な微笑みになり、ゆっくりと相手の口元をなぞる。彼はその指先を掴むと軽く口付けた。



「あぁ。でも、これはまだ言わない。

君が真実を教えてくれるまで、ね」

「真実?」

「君が、あの場に飛び込んできた本当の理由」



ほんの一瞬、彼女の虹彩が大きくなる。だが、次の瞬きでそれは消えた。



「……何のとこかしらね」「まあ、いいけど。で、女王様の好奇心はみたされたかな?」

「えぇ、今日のところは」

そっけなく離れるとドアノブに手をかける。ガチリ、と回る音がした。



「おや、今夜も独り寝かい?そろそろ同室でもバチは当たらないと思うけど?」

「そうね。次の街に着いたら考えなくも無いわ」

「少なくとも、窓の鍵は開けておいて欲しいね」



忍び込むからと、一見すれば邪気の無い笑みだが、一枚剥がせば黒い笑みで続けた。

この暗い笑みが嫌では無いのだ。不思議な事に。



「…ね、デボラ」



彼女がドアに隠れる彼は小声で、だが、彼女に聞こえるように呟いた。



「『愛してるよ』」



数秒、彼女はその場に立つものの、振り向きもせずに言い放つ。



「『えぇ、私も』」



こんな白々しい夫婦の会話は、世界中を探しても他に有りはしないだろう。

デボラはそう感じながら、ゆっくりとドアを閉じた。





彼女たちが大切だと、彼は言った。

それはデボラも同じこと。

そしてこの1ヶ月。共に過ごして分かったことがある。

彼の異常な力と、そして果てが見えぬ旅。



「私もフローラは大切よ。誰があんたなんかに嫁がせるものですか」



そう吐き捨てると月の無い海を見た。

妹の住む家はとうに見えなくなっていた。







男は亡き父から託された剣を手に取り、なぞった。

重くて、装備は出来ない。先日手に入れた盾も同じだった。



自分は勇者ではない!

自分では母を助けられない?

何故自分が勇者ではない!

勇者であれば父を故郷を救えた?



もう誰も巻き込みたくない。

この盾はどさくさに紛れて盗み出すことさえ考えていたのだ。

それが最良の選択だと。

皆を気付つけることになるが、死なせることはない。やがてこんな男のことなど忘れて平和に暮らすだろうと。

そう、考えた。

なのに、何故彼女を選んだ?



「同じだと思ったから、かな」



プライド高く振る舞う仕種の奥に、微かに見えた“淋しさ”



「君にそれを告げたら、烈火の如く怒るだろうね」



男の呟きは誰にも聴かれることなく、部屋の炎と共に消えた。





◆◇◆

勇者ヨシヒコを見てたら5を思い出しました(笑)色々巡ってみたら、デボラさんって人気なんですねぇ。



スレた主人公なら、デボラさんに対抗出来そうかな、と。

花壇に咲く花を咲かせるように、結婚してから育む愛があってもいいじゃない。

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ホシノヤドリギ
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自己紹介:
現在、役者として成功することを夢みつつ、しっかり腐女子になっている20代です。

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